Q.現在、古い一軒家に一人暮らしをしている85歳の母親がいます。
最近、少し足腰が悪くなってきていることから、高齢者施設への入居を考えています。
時々は自宅に戻ってすごしたいため、現在の家はそのままにするつもりのようです。
息子が1人いて、この息子と一緒に家族信託を検討しているそうですが、この場合、どのようなスキームが考えられるでしょうか。
【解説】
まず、家族信託を使わなかった場合どうなるのでしょうか。母親が高齢者施設に入所しても、自宅はそのままにしておくというのはよくあるケースです。しかし、施設入所後に認知症など、意思判断能力が失われる状態になってしまった場合、自宅の管理や処分は大きな問題のひとつとなります。
息子が近くにいれば、自宅の管理や修繕に関してはできると思います。ところが、母親の生活費や施設利用料等を捻出する目的で、かりに自宅を売却しようとした場合、その時点で母親の意思判断能力が喪失していたとすれば、自宅は売るに売れません。
◆家族信託を利用すると・・・・
次に、家族信託を使うとどうなるでしょうか。次の図のようなスキームで検討してみてください。
施設入所と同時に自宅の所有者である母親を委託者、息子を受託者、そして受益者を母親とする信託契約を、母親が元気なうちに息子と締結します。
母親は入所後、入所前に思い描いたとおりに月に1・2回帰宅して掃除をしたり、泊りたいときに泊まったりすることができます。そして、徐々に意思判断能力が低下し、判断できなくなったら、息子の判断でその不動産を処分することも、他に貸すこともできます。
信託契約により、成年後見制度などを使わないと自宅は処分・活用などが難しかった※のが、息子の判断で自由に処分・活用できるようになります。
自宅を売ったときの売却代金は受益者である母親のものですので、その管理を息子が行い、母親のために有効に使うことになります。最終的に母親が他界し現金が残ったら、これは相続財産として息子が取得することになります。
※成年後見制度を使った場合、お母さんの施設利用料の支払いや生活費の不足など、「売却することの合理的理由」がなければ売却は困難であるといえます。万一、売却に成功しても、売却が終わった後も後見人は辞任できませんので、その後も引き続き成年後見制度は継続します。