Q.アパートを2棟持っている父親がいます。子どもは男女1人ずつです。父親は自分でアパートの管理を行っていましたが、ある日、庭の手入れをしていたときにつまずいて、頭を打ち入院してしまいました。今も意思判断ができない状態が続いています。
現在、アパートに新規入居希望者などが出た場合は、長男や長女が父親の代わりに賃貸借契約書を代筆しています。
なにか問題があるのでしょうか。
【解説】
賃貸借契約は法律行為ですから、たとえ家族であっても父親名義の契約の主体者になることはできません。ましてや、意思能力や判断能力がなくなっている状態の父親があたかも判断したかのような体裁(代筆)を権限のない家族が行うことには、実は法律上、大きな問題があります。
同様に、今の状態では、将来発生する「大規模修繕」や「建替え」「売却」と言った判断を必要とする行為は、原則的に行うことが難しいといえます。
では、父親が元気なうちに、家族信託を設定しておけばどうだったでしょうか。
◆家族信託を利用すると・・・・・
不動産はアパートが2棟あって、子どもは男女1人ずつですので、所有者である父親を委託者として、例えばA物件については長男を受託者とします。そして利益(この場合は家賃)を受け取る権利は父親、つまり受益者は父親とします。B物件についても同様に父親を委託者権受益者とし、長女を受託者とします。そして父親が元気なうちは、長男、長女と一緒にそのアパートを管理していけば問題ないでしょう。
もし将来、父親が意思能力や判断能力を失う事態に陥った場合、今度は受託者である子どもたちが明確な財産の管理処分権限をもって、「賃貸借契約」はもとより、「大規模修繕」や「建替え」もしくは「売却」といった行為を行うことが可能です。
何よりも、意思判断能力を失った父親の「代筆」をして契約行為を行うという「法的に問題のある行為」から開放されます。
もちろん、信託契約書には、将来相続が起きた場合、それぞれの物件の承継先をA物件は長男、B部物件は長女としておけば、別途遺言で指定したり、相続発生後に遺産分割協議をしなくても、自分の意思通りに相続させることができます。